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「……Chiepunkinere〈守護を〉」跪き、祈るように古語を唱え、四季は寝台に横たわる桂也乃を見つめる。
失念していた。彼女もまた、皇一族に属する始祖神の縁を担ぐものだということに。 四季が桜桃と小環をけしかけている間に、慈雨は桂也乃を呼び出したのだろう。好奇心旺盛な彼女が危険人物である慈雨の誘いを断らないわけがない。「式神(かすみ)をつけておけばよかったな」
「遅いんだよ、四季は」傍らに控えていたかすみが、ぷいとそっぽを向く。彼女もまさか慈雨がここまで追い詰められていたとは気づかなかったのだろう。
「……お姉さま」
信じられないようすで立ちすくんでいるあられは、鬼造姉妹の長女で、慈雨に従っているみぞれの身を案じている。
職員宿舎から校医の氷室を呼び、応急処置を施した。だが、先日の銃創が完治していないうえに、流れた血の量が多すぎる。 四季は土気色に近い桂也乃の顔から眼をそらし、氷室に問うた。彼女は正直に応え、もはや自分にできることはないと、救護室から姿を消した。これ以上、関わりたくないというのが本音なのだろう。 四季は氷室が口にした無慈悲な宣告を、心の中で転がしつづける。――明日までもつか。
「もたせてみせる」
決意を新たに、四季は立ち上がる。その荘厳な声に、かすみが戸惑いながら声をあげる。
「シキ、何を……」
「禁術をつかう」始祖神や至高神が持つ強大なちからを四季自身は持っていない。けれど彼自身、カイムに生きるカシケキクの傍流で、逆さ斎として動いているのだ。始祖神の縁者である桂也乃を、いや、学校生活を共に送った同室である桂也乃を、天地を脅かす禁術を使ってでも、四季は救いたいのだ。なぜなら彼女は。
けして叶うことのない。
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「どこへ向かわれるのです?」桂也乃を刺した慈雨は、みぞれの制止を振り切って、学校の敷地の外へ向かって飛び出し